愛が何さ!
クリスマスが何だってのよ!


あたしはバイトだっつーの!


「・・・10時から9時まで?」

殺人的なバイトのシフト表を見たあたしは思わず呟いたあとに絶句した。あたしのバイト先はコンビニ。うん、確かにコンビニって楽だ。楽だけど、ただの休日とかじゃない。休日じゃないけど結構なほど人通りのある場所にあるクリスマスのコンビニだ。

そりゃあね、クリスマスは暇ですよって笑って言ったのはあたしだけど。
ウチの店長ってば遠慮を知らないな!

もう、自分でも悲しいんだか虚しいんだかわからないくらいに、そのときのあたしは遠い目をしていたと思う。ああ、しかもクリスマスってことはきっと、ケーキ販売だ。あの、寒空の中での。



「はーあ・・・」





* * *






「お家へのおみやげにケーキはいかがですかー?」

クリスマスのコンビニ前はたくさんのカップルが通っていく。そんな中でのケーキ販売って、寂しいというより虚しい。しかも寒い。それにしても、やっぱり人だかりへと宣伝するのって勇気もいるけど忍耐力もいる。だってほとんど誰も振り向いてくれないよ、この状況。

そんな中でも時間って勝手に過ぎるもので、時間が過ぎるごとに嫌でもケーキは売れていく。とりあえずケーキも残り少なくなり、イルミネーションが輝く時間帯になってきたころ。はぁ、と冷たい空気に息を吐いた。

「・・・あれ、」
「へ?・・・あー、いいんちょだ」

人だかりの中での宣伝に振り向いてくれた人は、ケーキにではなくあたしに反応したうちのクラスの委員長だった。真面目というより、明るくて優しくて頼りになる、そんな彼とあたしは普段から仲がいい。だから声をかけられるのも不思議ではないのだけれど。

「クリスマスにバイト?よくやるね」
「うるさいなーいいんちょは何してんのよ」
「別に?暇だったから」

暇だったからってこんなカップルだらけの人通りが無駄に多いところに一人で来なくても・・・そんなことを口には出さずに思っていると、音符マークがつきそうなくらい楽しそうにあたしを見る委員長は、こちらに歩いてきてにっこりと笑った。
憎たらしいな!
はぁ、と溜め息をつくと気付けば彼は立っているあたしの隣に座っている。

「・・・そんなに暇なの?」
「そんなに暇なんです。」

ああ、そう・・・と半ばあきらめ気味にまた上を向いて、声を出す。
もうそろそろ長かった今日のバイトも終わりだ。


8時30分。


腕時計をちら、と見て人から人だかりに目を向けた。楽しそうに歩いていくカップルも、今はもう何にも思わない。楽しそうでいいな、とは思うけど、憎らしくはないな。だって今、あたしスキな人がいるわけじゃないし。そんな中、ケーキはあと2個。結構順調だったなぁと考えながら2個のケーキを見つめる。

「なぁ」
「何?」

あとはそんなに時間もないしと思ってあまり声を出さずにいたら、横にいる委員長から声。

「バイト、9時まで?」
「え、ああ、うん」
「・・・送るよ」

思いがけない彼の言葉に、驚いてあたしは固まってしまった。
そりゃ、送ってくれるなんてありがたいしうれしいんだけど。





ん?・・・・・・・・・うれしい?





「すいません、」

ぼーっとしていると前にはケーキを買おうとしているお客様。
ハッと我に帰り、ケーキを渡して代金を貰う。



頭の中がさっきの彼の言葉でいっぱいいっぱいだった。
ふと下を向くと、目が合った彼はふわりと笑う。
急に顔が熱くなって、急いで見えないように前を向く。
熱くて、熱くて仕方がない。


そんな、馬鹿な。







ああ、あたしはこの人のことが、・・・最初から。







「いいんちょ」
「ん?」
「・・・策士め」

あたしの言葉を聞いた彼は、ちょっと目を見開いてそのあと意地悪い笑顔を浮かべた。
そんな笑顔すら、愛しく思えてしまうなんて、重症だ。









寒く感じるはずの冷たい風が、熱くなった頬にひどく心地好い。









あぁ、どうしようもなくこのひとに惹かれてしまった。








最初から狙ってたのは、きみのほう。( 20061226 )