ふと見上げた空は、晴れる様子もない。
どんよりと覆った灰色の雲に、はぁ、とため息をついた。







ふいに涙ぐみそうになったのは、眩しすぎる太陽のせいにしておいて







「・・・、なんでいんの」
「いちゃ悪い?」

決別したはずの恋人は、自嘲気味に笑った。

嫌いになったわけではない、決して。

馴染みのカフェに、どうしてお互いが来ないことを私たちは信じきってやってきたのだろうか。
まだ思い出が残るその場所は、もう戻ることがないと意味していた。


「じゃ、質問変えるよ」
「何?」
「・・・何を思って、ここにきたの」
「・・・・・・、」

黙り込んで、座った斜め前の席。
カチャ、と音がしてすぐに煙草の香りが漂ってきた。

「ほんとうは、」

「きらいなんかじゃなかった、だろ?」


質問の答えじゃないということははっきりしている。
その言葉の意味は深すぎて、私には重たかった。

そう。きらいなんかじゃなかった。

何が私たちを決別させたのか。
それは何よりも、私の優柔不断からだった。




―涙は。

渇ききったと思っても、流れてくるものなのか。
すきだから、別れたなんてそんな美しい理由じゃない。
でも、本当に嫌いなんかじゃなかった。悪いのは全て自分だ。

知ってた・・・そうでしょう?


「・・・っ、」

涙が流れては落ちて、白いボトムに染みを作った。
感情だけが溢れる。

コトバが、 でない。



「き、らい、なんかじゃ・・・なかった」

「でも、このままじゃ、わ、たしのためにも、」

「あなたの、ために、も、」

「ならない、って・・・そう、おも、った・・の、」


涙で言葉がつまり、途切れ途切れの音。
気持ちはただ、それだけだった。

「・・・そ、っか」
「・・・う、っ、」
「約束、」
「・・・え、?」
「守ってよ」
「・・・・・・?」


かたん、と彼が立ち上がる。
涙が止まらなくて顔を上げられないまま音だけ聞いていると、ふわり、と髪に何かが触れた。
何度も何度も、触れられた、彼の手。


「・・・、約束、したろ?」
「っ、」
「二年後も、ここに、いる。」






『二年後も、その先も、ここがあったらいいのに』
『あるよ、なぁ、マスター?』
『んー?君たちが来る限りあるだろうね』
『私たちにかかってるんだ!』
『じゃ、ここの存続のために通うか!』

『それじゃ、二年後も、ここにいようね。』
『ああ、』







「・・・・・・!」




笑った顔も、きっと、。

また二年後に、会おう。という合図。

たとえ離れても、そのころの気持ちを思い出して。

あなたに会いに来る。

あなただけに。




からんころん



いつもは二人で出るその音が、独りで響いた。





―――涙が渇いたころにふと窓の外を見たら、晴れていて。


なんだか、また、涙がにじんでくる。






“また、ここで。”


“二年後、かならず、待ってる。”


“今は、






さよなら。”















ロングタイトル、より10。
副題は「約束」。です。
悲しい、話を書きたかったんじゃなくって(笑)その先の希望。
別れじゃないんです、本当は決別でもない。
でも、今だけは「さよなら」をする。

そんな勇気も、必要。ということ。
2006/07/23