・・・神様。
この状況は一体どういうことなんでしょう? 何で俺は1番気まずい人と2人きりで中庭に居るんでしょうか? ・・・神様なんて居ねぇか。そしたら今の状況、無ぇもんな。 そんな罰当たりな事を考えながら、俺は目の前に居る女を見つめた。 Precious Time -8- 「あのー・・・木川?」 「何?」 「何?じゃなくてさ。何か用あるんだろ?」 「別に」 「・・・は?」 「・・なんて言ったら、本田怒る?」 「何言ってんだよ・・さっきからわけわかんねぇよお前」 そう、木川の問いに答えると木川は笑い、その顔は俺に向けられた。 「あのね、本田」 「?」 「今から言うこと、よく聞いてて欲しいの」 「・・・?うん」 「本田にはよくわかんないかもしれない。 だけど、最後まで聞くって約束してくれない?」 「まあ、良いけど」 「それじゃ、全部言うね?」 静かな沈黙が、俺と木川の間を包んだ。木川は俯いていた。そしてスウ・・・と息を吸い、俺の眼をじっと見てゆっくりと口を開いた。 「本当は、言うつもりは無かったの。全部。最初は・・ね。本田と、仲直りできないならそれで良いやって、思ってた。けどね、私・・・心のどこかで気付かないフリしてただけかもしれない」 最初、何の話だかわからなかった。 そのコトがどういうことかは、次の言葉で気付く。 「距離なんて置くべきじゃなかったんだって由紀に言われて初めて気付いた」 …脳裏に焼きついた言葉。 本当は最初からあった距離だったのかもしれない。 でもそれじゃ、全てを失った気がしたのは気のせいだったのだろうか? ―木川の顔は笑っていたけれど、辛そうだった。 「まだね、正直“すき”って分かったわけじゃない。 私ね、‘恋愛’と‘友情’の間でウロウロしてる。」 ・・・すき、か・・・ ああ、やっぱり。なんて自惚れ。木川が聞いたら笑うかな? 「わかんないの、けど・・ね。言いたかったことが一つだけ有るんだ」 『分かる?』なんて、優しく笑わないで欲しい。 自分の強がりが崩れそうで怖い。 「・・何?わかんねぇよ」 木川は、ガラにもなく穏やかな表情だった。 だが、”精一杯”―そう言う風にも見えた。 「私、本田のことすきかもしれない。」 その言葉を聞いた瞬間、半分放心状態だった。 嬉しくて?悲しくて? いや、違う。 このやるせない気持ちがどうにもならなくって、 辛い気持ちとスッキリしたような気持ちが重なって、さらに辛くて。 思わず、わけもなく笑みがこぼれた。 「木川、俺さ」 「ん?」 「俺も一緒だったんだ、気持ち」 そういうと、木川は驚いた顔をして呟いた。 「そっか・・」 「本当は、分かんないけど」 「・・・うん」 笑った。 ・・・どうして? 「でも・・やっぱり一緒だなぁ」 木川は苦笑いながら空を見上げた。 空は俺たちの心とは裏腹に、憎らしいほど晴れていた。今現在の俺たちにはこれぐらいキレイな”感情”は通じない。キレイゴトを言うつもりも無い。 ―だけど、 お互いが信じられなかっただけ。 お互いが勇気を出せなかっただけ。 今は、『友達以上恋人未満』なだけ。 そう、それだけなんだ。 それでも、すきだといえる日が来る。 そんな、自信がある。 もう既に恋愛対象には入ってる。 だからこそ・・・分かるんだ。 今より貴重な、大切な瞬間だと思える日が来ることも。 「ねえ、本田」 「何だよ」 「今はこのままで良いんじゃないかって思わない?」 唐突に問われた質問に、俺は笑ってしまった。だって、そんなの答えは決まってるだろ?このポジションが、今は心地良いんだからよ。 「思う。当分はココに居ても苦にはならねーよ」 木川の隣りを指差した。 「親友」として、ココに居ようじゃねーか。 「私も、一緒」 二人一緒に、笑った。 このとき俺たちは初めて心の底から笑えた気がした。 これからきっと、悩むことも有るだろう。 それでも今、笑っていられるのは”今”しか見えていないから。 どんなに未来に不安を抱いても消えることは無いから。 当分はこうして、二人で笑っていようか。 二人、悩んだ日々に、無駄は無かった。 ・・・そうだろ? ―Precious Time―
貴重な、大切な瞬間を、 ありがとう。 . . . F i n . . . |