チラチラと雪がちらついてきた頃。
あなたの笑顔が見たくて、遠く離れた街を訪れた。
















「久しぶりね、ここも」

にこにこと笑う私の隣には、呆れた顔で笑うあなたがいる。少し雪がちらつく街の中の公園は、寒さからかほとんど・・・というより、全く人気がない。そろそろ太陽が沈む頃らしく少しずつあたりが暗くなりはじめた。そっと確かめるようにやさしく手が触れて、そしてぎゅう、と握り締められる。

久しぶりのあなたの感触に、私は少し眩暈がした。


「・・・さむいだろ、帰らないか?」
―どうせ言ってもムダだろうけど、と後付けしてあなたは言う。
「そうね、さむいわ。・・・けど、もうちょっといない?」
―悪戯っ子のようにあなたの顔を覗き込む私。

びゅう、と風の音がすると同時にブランコもギィ、と音がした。

「久しぶりだから、なんだかうれしいの。あなたに逢えたことだけじゃなくて、ここに戻ってこれたっていうことも」

ほんとうは顔も手も身体も冷え切っていてさむい。
けれど心だけはどうしても冷め切らなくて戻る気がしない。

「・・・雪、積もってる」
「え?雪?」
「頭の上だよ、こんなとこでじっとしてるから」

・・・かれこれ、30分くらいはここにいるだろうか。
うれしいといっても少し居すぎたかもしれない。
ここはあなたとの出逢いの場所だから・・・居たくなる。
あなたのあの頃から変わらない笑顔を、思い出してしまう。

やさしいきもちになるのよ、しってた?

「・・・」
「ぅ、わ」

ぎゅっと伝わってきたのは熱だった。
人のぬくもり。

あなたはただ私の肩に顔をうずめて、より一層抱きしめる力を強めた。静かな沈黙が流れて・・・――空を見上げると先程より日が暮れもう街は暗闇に覆われてきているようだった。
沈黙を破ったのは、ちいさな、ちいさな、声。
“素直にいっていいんだよ、”と切なそうにいうあなたが愛しくて。
横からまわされている腕をぎゅ、と握り締めた。



「・・・・・・」
「・・・ぃたかった」
「・・・ん」



「・・・あいたかった。さみしかった。ほんとうはずっとここにいたいの・・・」
「・・・・・・ばかだね、ほんと」


・・・ここにずっといるなんて。
無理な話だ。私にだって、ここよりずっと西にある街で「私」の生活があるし、あなただってそうだ。全てを捨ててあなたの元へなんて駆け出せない、無理だよ。・・・けれど、いとしくていとしくて。一緒に居るだけで心があたたかくなる。

それが私の恋人。

「・・・ん、?」

あなたの唇が額にそっと、触れた。
そのままの距離で、あなたはうれしそうに笑う。

「ありがとう、」
「・・・え?」

私にはその意味が分からなかった。・・・困らせたはずなのに、私はどうしてお礼を言われているのだろうか。そんなことを考えていると、名前が聞こえてきた。“行くよ。”―寒さからか照れかからはわからないけれど、少し顔を赤くして。雪が舞う中笑うあなたは、なによりも美しく見えて伸ばされている手にそっと触れた。

「・・・帰ろう?」
「・・・うん」

触れた手はひんやりと冷たくて、雪を思わせた。
けれどその冷たさは、少しずつ私とあなたの間にぬくもりを生んでいく。

雪は少し量を増す。




あなたが私の薬指に誓いの指輪をはめるまで、あと8時間。




雪の冷たさなんて関係ない。あなたがいるだけで、私は寒さに耐えてゆける。( 20051230 )