結婚を、考えていないわけじゃない。 ただ今は、この状態が楽だから保っていたかっただけ。 「はい、紅茶」 「ああ、ありがと」 今年24になる私と、25になる彼。一緒に暮らし始めてから幾年が過ぎ、そろそろこんな状態にもピリオドをつけなければいけない頃だろう。けれど、こんな状態が楽でこんな状態でいることを互いに求めているから。 そんな私たちは、付き合い始めて七年になる。 「美味しいよ」 「ありがとう。ところで、どうかしたの?」 こんなに改めて紅茶を淹れるのも彼が話したいことがあると言ったからだ。何となくの期待と不安。でも私の中では、圧倒的に期待なんかの方が大きかった。もしかして―とか、そんな風に考えてしまうのが当然だ。 ・・・ああ、良かった。七年経っても彼への私の愛情は消えてはいない。 「暮らし始めて、もう大分経つよな」 「そうだね」 あくまでも、冷静に。 たとえばそれが、良い話でも・・・悪い話でも―。 「―まだ、俺のことすき?」 「当たり前じゃない。嫌いならとっくの昔に別れてる」 私があなたに、こんなに美味しい紅茶を淹れられるのも、あなたがすきだからなのよ。そう、嘘じゃない。決してその気持ちは嘘じゃないの。 ―だから、そんなこと確かめる必要なんて・・・無いのに。 「・・・今、幸せか?」 「・・・どうしたの・・・?幸せ、だよ・・・?」 ―不安になるじゃない。そんなこと言わないで。 出そうになった言葉を、押し留める。だめ、ここで言っちゃ ―― 笑っていられなくなる。 「俺もすきで、俺も幸せだよ」 「・・・うん?」 「だから―――・・・」 そこで彼は言葉を止めて、私を更に見つめ続ける。そんな瞳に吸い込まれそうで怖い。―すきなのに、不安になるなんて、私は何度も経験した。幸せだからこそ、怖くなるということだって。だからその時悟ったんだ。私は彼がすきだから。すきだから怖いんだって不安なんだ。本当に幸せだから、こんな気持ちを持つんだと。 怖いよ、けれど幸せで仕方ない。 「 結婚、しようか 」 その言葉は、きっと私の涙の枷を外す役目を持っていたんだろう。 彼の言葉が頭の奥に伝わった瞬間に溢れ出た涙は、紛れもなく幸せをかみ締めた涙だった。 少し不安そうな彼。 ああ、彼に出逢ったときから―想いが通じてから―想いは決まっていたのに。 もう、すきじゃ言い表せないよ。 「もちろん、あなたを―・・・愛している、から・・・っ」 そっと抱き寄せられたぬくもり。愛しくて優しくて。 あなたに美味しい紅茶を淹れるのも、あなたに抱きしめてもらえるのも私だけでいい。 不安なんて吹き飛ぶくらい、今私は ―― あなたを愛してる。 確かめる必要のない愛。 少しだけ冷めた紅茶。 抱きしめられたぬくもり。 不安だって、あなたがいるから愛しさにかわる。 もし、何年かしてまだ私が、あなたにこの紅茶を淹れていたとしたなら―・・・。 信じていて欲しい。 きりがないくらいに、私はあなたのことを愛している。 |