「ラスティア!ラスティアー!!」

耳元で叫ばれたときには、本気でこの片割れを殺そうと思った。






今、此処に在るモノ






「ラスティアー起きろー!!」

静かに寝息を立てる ― ラスティアと呼ばれる ― 少年に大声を張り上げて起こす少女。さすがに耳元で叫ばれて、起きないわけがなくてラスティアは目を覚ました。そしてその直後、少女が出した倍以上の大声が部屋内に響いた。

「うるっせーんだよ!!!」

明らかに不機嫌そうに青筋を浮かべて話すラスティアを無視して少女はにんまりと笑う。端から見れば怪しいその笑顔に呆れてラスティアは壁にもたれて髪を掻き毟った。

「どうしたんだよ?アルリカ」


アルリカと呼ばれた少女もベッドに腰掛け、更に笑顔になった。

「あのね、あのね!」



「アルリカ!何やってるの!」
嬉しそうに話そうとしたのを止めたのは二人 ― ラスティアとアルリカ ― の母だった。

「母さん・・・」
「ラスティアも早く降りてきなさい!」
「「はーい」」

母親に一喝されて、二人は一緒に一階へと降りていく。二人は笑い合って朝食が既に用意されているテーブルへ着いた。



ラスティアとアルリカは、二卵性双児。ラスティア・リーフが兄でアルリカ・リーフが妹だ。二人は小さい頃から仲が良く近所の人に「本当に仲が良いわねぇ」と感心されるほど。

それは二人が14歳になった今も変わらない。







*  *  *








「で?」
「え?」

朝食をゆっくりと食すアルリカと対照的に、既に済ませてしまったラスティア。食後のコーヒーを飲んでいるラスティアは急に切り出した。何のことだ、といった感じのアルリカを見ると先程楽しそうに話そうとしていたことはさっぱり忘れているらしい。


本当に、この妹は・・・

そんな風に思っていながら本人はその妹を大事にしている。たった一人の妹であるし、それは当然のことなのだけれど。

「さっき言ってたこと。楽しそうに話そうとしてたろ?」
「あっそうなの!あのね!」
「あら、何かいいことでもあったの?」
「ラスティア、ママ、聞いて!実はね…」

母親とラスティアはその後アルリカが言った言葉を聞いて固まることになる。






「あたし、すきな人が出来たの!」





アルリカはフォークを持つ右手と何も持っていない左手をパン、と叩きながら言う。母親は笑顔で固まり、ラスティアはコーヒーを持つ手を止めた。



― 三十秒後。

二人は「ええぇぇぇぇ?!」と叫び、テーブルに勢い良く手をついて立ち上がる。アルリカは「え?え?ええ?」と二人の様子に逆に驚いてしまっている。



「・・・で、何処の男だ?」
とりあえず落ち着いたラスティアは母親を宥めながらアルリカの好きな人について聞き出す。

ああ、どういうことなんだ。

そんな感じの彼の心境と、きっと母親も一緒だったであろう。

― 因みに補足だが、ラスティアとアルリカに父親はいない。離婚がどうだとかそんな話ではなくて単に昔から病気がちだった為に亡くなっただけだが。要するに母子家庭。ということなのだ。



「あのね、その・・・」

少し頬を赤く染めながら話すアルリカは兄であるラスティアから見ても可愛いものだった。ただそのきっかけが自分ではなく他の男だと思うと酷く腹が立ち、笑顔が引きつる。

―というか、家族にすきな人が出来たとわざわざ報告するアルリカも珍しいけれども。

そしてこれが初恋だというから本当に純粋らしい。


「アルリカ?誰なんだ?」
「えと・・・二ッド、なの」
「ニッド・・・って」
「え、ニッドってあのニッド?」

「・・・うん・・・」
“二ッド”というのはラスティアの親友であるニッド・リスマンのこと。ラスティアの親友であるのだから勿論妹であるアルリカとも仲が良い。その事実を聞いた途端に母親、ラスティアの間にピキ、と音がした。


「アルリカ・・・」
「?」
「ニッドだけは、やめとけ?」
「そうね、ニッドだけはやめといた方がいいわ」

普段温和な母親が言うほどニッドは悪い奴なのか。― そう言われると、そうでもない。要は二人とも大切な妹、娘を守る為に言っているだけなのだ。ラスティアも母親もアルリカが大事で仕方が無いらしい。

「どうして!」
「ニッドは!ニッドだけはやめておけ・・!」
「なーんーでー!!」

何で、と聞くアルリカは普通だ。ラスティアと母親が少しおかしいだけなのだ。


「というか、まだ早い!」
「何がよー!」
「そうよ!早いわ!」

否、早くは無い。決して(強調)早くは無い。普通だと思います、お二人とも。


「うわーん何で?!家族だったら応援してよー!!」
「「これだけは無理!絶対に無理!!」」

「んなー?!」



ラスティアと母親 VS アルリカ。

まさに、そんな感じだ。






愛しすぎるのも、どうでしょう。
愛されすぎてるのに気付かないのも、どうなんでしょう。


とにかくアルリカは、ラスティアとお母さんに愛されているんですよ。ね。








朝から、リーフ家では三人の叫び声が聞こえたそうな。







阿呆双子シリーズです。
いやーホントこの人たち書くの楽しいですよ。笑
んでも、アルリカちゃん鈍感すぎると思いますよ。爆

ラスティアは、あんなこと言っておきながら彼女が居ると思います。
居るはずです。笑