「そろそろ帰らなきゃ」 「送っていこうか?」 立ち上がった私の横で彼は呟いた。それだけで一瞬にして引いていたアルコールがまた戻ってくるような感覚。フラリと立ち眩みを覚えてカウンターに手をつくと不思議そうに彼は私を見つめた。思わず紅潮しそうな頬を抑えてふい、とそっぽを向く。何もなかったように、出来るように。 「それじゃ、ありがたく」 「はいはい、出ようか」 バーを出ると少しだけ冷たい風が頬を通り過ぎた。二人きりだった空間もいい加減慣れて、ただ少しの難点といえば動悸がうるさいことだ。どうしようもない、くらいに、彼を意識しているのがわかる。すきじゃない、寧ろ嫌いだと思っていたのに。いつのまにか彼の存在は私の中で強く、しっかりと刻まれていた。 「・・・なぁ」 「何?」 「・・・お前のことを俺は絶対すきにならないって・・・お前言ったよな」 「言ったね」 いつか言った言葉。 “アンタは絶対私のことをすきにならないと思う” そして、私も絶対すきにならないとその時思ったはずなのに。一歩先を歩く私に対して、何を思ったのか止まる彼に―何故か、胸が高鳴った。ぐい、右腕を引っ張られてバランスを崩しそうになった身体は、彼の胸に倒れこんだので地面には、倒れこまずにすんだ。 そして―ふっと後ろから抱きすくめられる。そのぬくもりが嘘のようで、信じることも疑うことも出来ない。 「・・・もし、すきだって言ったら?」 「・・・うそでしょ」 泣きそうになった瞳をぐっと閉じて精一杯冷静に反応を返した。彼のことを信じたことは一度もない―といえば、嘘になるけれど今のそのぬくもりから彼の言動まで全てを信じることなんて出来なかった。 嘘じゃない。 彼がもしそう言ったのなら私はどうする気だったんだろう。何も考えずに、うそでしょう、そう吐いた。信じるとか信じないとかそういう問題じゃないのだ。要は彼の気持ちは本当かどうか、確かめたかっただけだ。 嘘だよ。 そう言ったとしても私はきっと泣き崩れることなんて無く、彼をただ撥ね付けるだけだろう。予想できることだ。彼が―そう言うことなんて。 「信じられない?」 思いもよらなかった言葉に私は何も言えなかった。信じられない、そう言い返すことも、そんなことない、そう言ってしまうことも出来なかった。心の何処かで私は彼のことを求めていたのかも、知れない。 「誰よりも・・・すきだよ、」 「―――っ」 どうしようもないくらいにその腕は力強くて、撥ね付けるなんて出来なかった。耳元で低く囁かれた言葉に身体は強く反応する。胸の動悸がおさまらなくて私はただ彼の成すがまま。大分前に呑んだアルコールの所為だろうか。それとも、彼の言葉の所為? ―身体は火照り、熱くなって、いく。 「どう、して・・・?」 問い掛けたその言葉は夜の空気に消えていった。 --- こんなのばっかりですな、最近。爆)こういうの書くの楽しい。成人女性の弱弱しいところを書くのがすきなのか、それともこういう夜な雰囲気を書くのがすきなのか。正解はどちらでしょう?(え) |