誰よりも近いヤツがいた。
本気になんてならないと思ってた。

―それでも。
私の中で何かが確実に変わっていた。


そしてきっと、『アイツ』の中でも。



エトセトラ ♯1




「っていうかさ。」

唐突に話し始めた親友の小波由紀の冷ややかな声に、私は思わずビクっとしてしまう。“相変わらず由紀の声は怖いね。”なんて、その張本人に言ったら、思いきり睨まれてしまった。

「で、何?」
「・・・桜、勉強大丈夫なの?フラフラしてる場合じゃないんでしょ」


「・・・否、私一応由紀の次なんだけど。」



そう、私たちは受験生。いつまでもフラフラしていられない。唯一救いなのが私たちの学校、藍光学園はエスカレーター式ということ。それでも有名進学校であるからレベルは高いのだけれど。


「ま、大丈夫でしょ。悩んでたときにも散々勉強したし」
「それなら良いけど?桜、頭悪いわけじゃないしね」
「学園では良い方ですー。ってかトップに言われると嫌味っぽいよー」
「ハイハイ。」

普段大して勉強していない由紀が一位。いつもいつも学年トップ。そして、私はその由紀の次。一応頭は良い方なんだけど、由紀には敵わない。

『何でそんなに頭良いの?』
って聞いたこともあったけど、返ってくる返事はいつも一緒。

「良いよねー学年トップはさ。何でそんなに頭良いのよ?」
「努力してるからに決まってるでしょ」

・・・いつもこれ。嘘か本当かは謎だけど、勘で言うと嘘な気がする。そんなことを考えていると、由紀は話を変えた。


「ところで本田とはどうなってんの?進展とか無いわけ?」
「・・・進展も何も、今は親友だしねぇ」


私は頬杖をしながら相も変わらず騒がしい一人の男を見つめた。


本田秀一。


一度意識したことがあって互いに本気で悩み、結局親友となった奴。

今でも意識はしているけど、前よりは普通の存在な彼。
そういえば一度付き合ってたこともあったっけ。



彼は女の子たちに人気もあるため、何度か呼び出されたこともある。「離れろ」っつったって、本田が離れないよなぁ。簡単に誤魔化したんじゃ確実にバレる。し。


好きなら本人に言えば良いのに。そんなことをボヤーッと考えていた。




「私のことはともかく、由紀はどうなのよ?」
「は?」
「水口よ。み・な・ぐ・ち」
「あー・・・」


本田の以前からの親友で、由紀の幼馴染み。

水口洋介。

彼は由紀に昔から好意を持っていたらしい。だが、由紀はそれを分かっていながらも気付いていないフリをしている。

・・・我ながら酷い親友だ。


「まあ、あれじゃ告ってくる様子も無いよねぇ・・・」


私が本田の隣にいる水口を見ていると由紀はフッと笑った。

「何笑ってんの。」
「否、本当度胸無いよねーって。思って」
「うーわー酷い人っ悪魔めっ」
「何とでも言えばー?」

冷たい笑顔の由紀はまた、ずっと見ていた雑誌に目を戻した。






「木川さんっ」


急に声を掛けられ、驚いた顔で声の主がいる後ろを見るとそこには数人のクラスメイトがいた。

「あらあら皆さん怖ーい顔をしてどうかいたしました?」

にっこりと効果音でもつくんじゃないかと思うぐらいの嫌味の笑顔を見せ付けて言った。



「放課後、お話があるんだけど良いかしら?」
これまたリーダー格の女の子もとっても素敵な笑顔を見せ付けて言った。私たちはお互い憎しみたっぷりの笑顔で話をする。


「ええ、良いですよ?」
「それじゃ放課後、いつものところで待ってるわね!」




きっと私たちの周りだけ氷点下並みの気温になっていたに違いない。





「いつものところってどこよ・・・」








由紀が呆れ顔で聞いてきた。
私はさっきと同じような顔で、また答えた。







「私と本田が親友宣言したトコロ、よ」











その後、由紀が溜息をついたのは言うまでも無い。