「・・・あのね、由紀」
ずっと決めかねていたこと。
思い切ってしまうのが怖くて、それを考えていたことを由紀にさえ、言っていなかった。
いや、違う。言えなかった。

でも、もう決めなきゃいけないこと。





エトセトラ ♯11





テストの結果が分かった翌日、由紀が本田に言ったことを水口から聞いた。それは紛れもなく、由紀が私を想って言ったことだと分かっていた。けれど、それをどうしても受け入れることが出来なくて。由紀とその日会ったときに、私はどういう顔をすればいいか分からなかった。―当の本人は、なんでもない顔をしていたけれど、どこかその表情には疲れが手に取るように感じることが出来て、逆に私は胸が痛かった。
その日も授業は何事もなかったように終わって、私と本田は何も変わることはなくて。でもどこか私の中で気分はどんどん落ち込んでいくばかり。いつ泣いてしまってもおかしくない状況に、私は誰かに泣きついてしまいたかった。


「話があるの。」


冷静な顔をした由紀は、いつもと変わらない様子で。でもどうしてか私には悲しそうに見えて、とても申し訳なくなってしまう。
少し小さく笑った後に返事をした私に「ごめんね」と謝って、そのまま二人で教室を出た。―向かった先は由紀の家だった。




「聞いたよ、由紀」
「・・・洋介から?」

呆れたように笑うと、表情は曇る。瞳を閉じて、深く息を吸って、落ち着けと自分に言い聞かせるように大きく息を吐いた。

「あのね、由紀」
「どうしたの?」

『決めたの』と、その一言を告げて下を向いた。心配したように私の顔を覗き込む彼女に、泣きそうな顔をして、笑う。
―「言おうと思うの、本田に。私がここでずっと待っていても仕方ないし、」
そこまで言って、ぐっと上に顔を上げた。何か言いたげな目に、『ごめんね』と笑った。
「由紀が、本田にああいう風に言ってくれたからだよ。ずっと決めようと思って出来なかったこと、決められたの。・・・ありがとう。」
「・・・で、も・・・、私が本田に言ったのは・・・」

言葉をそこで手でさえぎる。

違うんだよ。

違うの。

私は、ね――。



「傷つくことから逃げるのは、もう嫌なの。今までだって私が自分から踏み込んだのは、結局自分の気持ちがハッキリしなかったからだよ」


以前、私が本田を呼び出して話したのだって、そうだった。あれは、確かに私なりの決心だった。けれど一度だって私はきちんとした気持ちを、本田に言ってない。―だから。



「ちゃんと、自分の気持ちがはっきりしてる今、言いたい。焦らせて決めた本田の気持ちじゃなくて、私の気持ちを知った上で、ゆっくり考えた本田の気持ちが知りたいの。わがままかもしれない。由紀にまた迷惑をかけるかもしれない。けど、私の決心を受け止めて欲しい。本田にも――由紀にだって。」





だから待ってて欲しい。
私は、本田のことがすきだから。





息を小さく吐いて、由紀の困惑した目をきっちりと見据える。
ねえ、由紀。
由紀にいっぱい伝えたいことがあるよ。

ありがとう、とか、大好き、とか、私の親友でいてくれてありがとう、とか。

もっともっと、いっぱい。




「――――・・・そう、わかったわ」



いつものような、呆れたような、やさしくて、あたたかい、由紀の笑顔が、



「・・・っ、ありが・・・と・・・っ」



久しぶりに、心からの笑顔を見て思わず涙が溢れ出る。
ごめんね。いっぱい心配させたね。わかってた――・・・本当にありがとう。


「言ってきなさい、本田に」
「・・・うん・・っ、」








一番の大親友。保護者みたいな存在で。
けれどそれ以上にきっと、誰よりも大切な大切な人。
やさしいから、甘えてしまう。あなたの方が、もっともっとしんどい立場なはずなのにね。


ぎゅう、と抱きついて声を上げて泣いた。
言わなきゃいけない。進まなきゃ、何も変わらない。



だから。








例えばそのときも笑っていられたら、きっと今迄で一番大きな笑顔だから。
受け止めて欲しい。

わがままも、許して欲しい。






ねえ、







『 すきだよ 』