もう二度と傷つけるようなことはしない、と。彼はそう言ったから。
私は信じていたつもりだった。

でもそれは「つもり」であって本当は信じていなかったんだ。




心のどこかで、彼を警戒している自分が居たんだ―。







傷 は  再 び  開 か れ る



episode * 00








彼と私は世間一般でいうと恋人同士だったけれど、互いが全くそういう風に感じていなかったからか周りからはそんな風に見えなかったんだと思う。どちらかというと最も近しい友達。― そんな風に何も知らない人には見えたそうで。


・・・ただ、“恋人”という関係になるまでにはそれ相応のことがあったから。
彼は私に優しかったし、私もそれに応えられるように、とも思っていた。


―傷つける という行為は一体何があればそうと言えるのだろうか。彼と出逢ってからそのことを深く考えるようになったけれど、答えなんて見つからないまま月日は過ぎていく。


今の私に云えることなんて、大して多くもないのだ。








*  *  *









「そもそも、どうやって付き合いだしたのあんたたち?」
私の友達である彼女 ― 里見理恵 ― は唯一私たちが恋人だということを知っている人物だ。だが、彼女でも知らないことが一つだけある。

「どうやって、ねぇ・・・」
―私たちが恋人となるまでの過程。―事実、そのことを知っているのは張本人である私たちだけ。他人はおろか、友達でさえ知らないのだ。私たちは話すつもりなんて更々無い、というわけではないが、理恵も聞かなかったから言わなかった。話し始めると時間を要するからというのも理由の一つなのだけど。

・・・それに、彼が良いのなら私も全然構わないのだ。

「・・・良いの?」
「別に良いよ?結子が良いなら」
「・・全く同じこと考えてた」
「それじゃ、話してもOKってことで」


簡単に話がまとまってしまうから自分でも驚いてしまう。

理恵も最初の頃は驚いていた。―もうそんなことはないけれど。





「私が話すの?」
「俺じゃ話が脱線するだろ?」





至って真面目に答える彼に苦笑いをこぼしながら私は話を始めた。



古木結子 と 塚川大。




私たちは対のような存在だった―。