対のような存在。
彼が太陽ならば、私は月。



彼が居なければ私は輝くことなんて出来ないんだ。







傷 は  再 び  開 か れ る



episode * 01  出会い








「・・・うっわーどうしよう。入りにくい・・・」

入学式当日、初っ端から遅刻した生徒が居た。

― 古木結子。

成績は中の中、顔も人並み。何もかもが普通の彼女の唯一の弱点といえば、朝が弱いことぐらいだろうか。既に入学式は終わって、ホームルームが始まった教室。しんとしているであろう中に入る勇気など、人並み以上に無いと出来ない。勿論彼女は全てが人並みであるのだから ― 入れるわけもなく。


「終わるまで待ってようかな・・・はぁ・・・」
「あれ?君も遅刻ー?」

溜息を大きくついてぱっと顔を上げると男の子が居て、結子の顔を覗き込んでいる。『へ・・・』と呆気にとられているとにこり、と彼は笑った。

「俺もなんだよ、遅刻」
「あ、そうなんですか・・・」
「入らないの?」
「・・・入りにくい、じゃないですか」


同い年であるはずなのに思わず敬語を使ってしまう結子をみてまた笑った彼は『それじゃ一緒に入ろうよ』なんて気軽に言ってのけてしまう。静かな教室の中に遅刻者が二名、同時に入ってくるのだ。目立たないわけが無いのに。


「だって、同じクラスだろ?それじゃついでに入っちゃえば良いじゃん。」
「そこまで勇気無いんですけど」
「何で?一緒に入っちゃえば恥ずかしくない・・・」
「んなわけないでしょう・・・」


首を傾げている彼を、はあ、と結子は先ほど以上の溜息をついて見つめる。 ― 勇気、あるんだなぁ・・・ ― そんなことを考えるより先にぐっと手を握られた。


「・・・何?」
「え、入るから」
「・・・」
「だって、嫌だってわけじゃないんだろ?」
「そりゃ、確かにそうだけど・・・!」

逆に目立ってしまうのだから恥ずかしさは逆に増す、そのことを彼はわかっていないようで。言葉を詰まらしているとぐいっと引っ張られて上を向くと既に彼は教室の扉をガラ、と開けていた。


「おはよーございまーす、遅刻しました―!」


「あのなぁ、お前そんな堂々と遅刻しましたとか言うな・・・」
「だって言い訳するのもどうよって話だろ、せんせー!」
「・・・あ、あの、おはようございます・・・」

明るく話す彼の後ろからひょっこりと顔を出して挨拶をする結子に、先生も驚いたようだった。彼のあまりの明るさに先生も怒る気を無くしたらしく、おかげで結子は怒られずに済んだ。

「・・・もう良いから、席につけ」
「はーい」

彼はあっはっは、と笑って自分の席に着こうとしている。 ― あ、そういえば名前聞いてない・・・ ― 結子は後ろに居る彼の方へふっと向きなおす。


「ねえ!」
「ん?」

「名前、聞いてない」


一瞬驚いたようだったが、無一文字に口をきゅっと結んだ結子を見て彼はまた笑いながら言う。



「塚川大、だよ。君は?」
「あ、えと、古木結子!」



そうして彼 ― 塚川大 ― は『そっか』と言って少し屈んで、耳元で呟いた。




「よろしく、古木さん」




そのあと結子の頭の中には、ずっとその言葉が巡っていて当分は忘れられそうに無かった。





太陽のように笑う彼のことと共に。