Precious Time -3-



本田ってば、ズルい。
確かに・・・確かに笑顔でいて欲しいと思ったけど!・・・けど!!

「反則だよ・・」
「あぁ?」
「本田ってばズールーいー!!!!」
「何でだよ・・」

へぇ・・成程。本田は鈍いのか。・・・そんなことを頭の中でめぐらせながら本田を見る。

「何でもっ」
「はぁ?!」

“ワケわかんねぇよ”と少し怒りながら本田は私から目をそらした。私はというと、本田の新たな一面が見れた気がして嬉しくなっていた。

「さーてと。私帰るわー」
「俺も帰るかな。」

(よく考えてみれば、こんな風に本田と話すことは無かったなぁ・・)
本田の顔を見上げながらふと考える。確かに、今このことが無ければこんな風に話すことは無かっただろう。




「・・・イ!オイ!木川!」
「はへ?」

我に返ると私は階段を踏みはずし、落ちそうになっていた。落ちるつもりが満々なのか、私は思わず目を硬く瞑っていた。






― ガシッ






「ふー・・・危機一髪だったな・・」


私は本田の腕によって、階段から落ちずに済んでいた。その瞬間、胸が高鳴った気がした。


「は・な・せーーーー!!!!」
「うわっじっとしろ・・・!」



― ドスンッ



「いってー・・・」
「何でバランス崩すのよー・・・タタ・・」
「お前が暴れるからだろうが。」
「ううー・・・」



暴れたのは、胸がドキドキしているのを隠すため。あれは女の子だったら絶対に恥ずかしい筈だって。そんな考え事をしている間に本田は既に立っていて。考え事をしている私を見ていたようだった。


「ホラ。立てよ。」


ねえ、本田。

何であんたはそうやって私がドキドキしてしまうようなことをするのよ?


ああ、もう。本当に、こいつは。

私は本田の手を取って、立ち上がった。




「・・・お前って意外に軽いのな。」
「意外は余計よ、本田。」

そう言いながら本田の頬をつねる。
本田は「いてぇ!いてぇよ木川!!」と叫んでいるが気にしない。

「ったく・・・本当に本田って鈍いよね・・・」

呆れたのように本田の顔を見る。
本田は私がつねったところを抑えていた。


「何でそうなンだよ、オイ。」
「・・・気にしなくていいわよー」
「気になるっつーの。」
「独り言だから。」
「デケー独り言だな。」
「屁理屈こねるんじゃないのー!」


また私は本田の頬をつねる。

「本田、あんたは一言多いわよ。」
「放っといてくれ。」


少しだけお互い黙り込むと、顔を見合わせて、笑った。




「じゃ、な。」
「ん。また明日ね。」
「あ。今日のこと誰にも言うなよ?」
「・・・フラれたことと泣いてたこと?」
「そう。」
「どうしよっかなー?」
「・・・木川・・!」






「なーんてね、大丈夫。言わないわよ!」





笑顔で、本田に言った。


明日もまた話したい・・
そう想っている自分がいたよ。









そう今日この瞬間から私は本田を気にするようになったんだ。