Precious Time -4-




あの木川と初めてちゃんとした(?)会話をしてから1週間。あれ以来木川と話す機会が多くなり、友達にからかわれるほどだった。


「ね、ね、本田。」
「あ?」
「最近由紀に『本田と付き合ってんの?』って聞かれるんだけどどう思う?」
「あー俺も聞かれる、それ。」
「やっぱり?ってそんなこと聞いてないっつーの。」
「別に良いじゃねーか。言わせとけば。」
「『違う』って言わなきゃいけないのが面倒なんだよー」
「確かにそうだけどどうしようもねーじゃねーか」
「・・・いっそ本当に付き合っちゃうとか?」



笑いながらあっさり言う木川に思わず面食らってしまった。


「本気にしてるんですかー?本田くーん?」
「・・・・・」
「本田ー?どしたー?」


「木川が嫌じゃなきゃ俺は良いけど。」




「・・・・・・へ?」




俺の次は木川が面食らった顔をした。というよりも、俺今とんでもないこと言った…?!

「い・・今なんて・・・?」
「お前は耳が遠いのか?」
「いや・・聞き間違いかな、なんて・・」


そう貫かす木川に少し呆れて木川をぶつ。


「いったーい!!!」

木川は俺がぶったところを抑えて涙目で俺を見上げていた。

「アホかお前は。」
「それじゃ、嘘じゃないの?」
「だからさっきからそう言ってるだろーがよ。」



「・・・本田、正気?」
「お前俺を怒らせたいのか?」


更に呆れて俺は腕を組み木川を見つめ直す。木川はずっとポカンとしている。


「普通にそれを信じろという方が無茶よ、本田。」
「妙に冷静だな、お前。」
「だって・・・!!」


「で?どうなんだ?」





「・・・私は・・・本田が構わないなら・・・」


「・・・んじゃ、決定な。」





「早っ」
俺の早い決定に驚いたのか、木川はかなり顔を歪ませていた。
「良いじゃん、別に。俺も木川も良いんだし。」
「そーゆー問題じゃなくってー。」





少し不満気味の木川を見て、苦笑混じりに笑った。
俺は木川の頭にポンっと手を置いて微笑んだ。
そうすると木川も少し照れながら一緒に微笑んだ。






そうして、俺たちは恋人同士になった。





「本田ー。」

付き合い始めて1週間経ったある日。俺たちはいつも通り一緒にいた。その光景に既に慣れたのか、クラスメイトたちももう何も言わなくなっていた。

「何」
「本田さ、うちらが付き合ってること水口(秀一の親友)に言った?」
「言ってないけど?お前は小波に言ったのか?」
「ううん、言ってない。」


木川は相も変わらず頬杖をしたまま俺を見ているようで。俺はというと、雑誌から目を離さずに耳を傾けているだけだ。


「それがどうかしたのか?」
「・・・・隠す必要も無いよね。」
「そうだな。」
「っていうか言わなきゃ付き合い始めた意味も無いよね?」
「・・・・・・・」



木川の何気無く言った言葉に、少し違和感を覚えた。



意 味 が 無 い ?



「本田?」


俺の様子がおかしいことに気付いた木川は、俺の顔を覗きこむ。
俺は雑誌を閉じて木川に顔を向け、静かに口を開いた。








「言われなくなったから、付き合ってる意味は無いってか?」
「・・・別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど。」
「悪いな、俺にはそう聞こえる。」
「・・・」





木川は少し顔を歪ませて俺の顔をジッと見る。
俺の言葉に腹を立てたようだった。






「…。それじゃ本田はっ、私と付き合ってたいのっ?」






「―・・・っ」


正直、分からなかった。


でも、木川が俺の中で特別な存在になっていることは確かだ。
それは、自分でも自覚している。
けれど自分にとって木川が

”親しい女友達”

なのか

”すき”

なのかは分からない。


「ねえ、本田」




突然口を開く木川に驚き、俯いていた顔を上げた。
木川は普段しないような真剣かつ切なそうな顔をしている。




「私たち、このままじゃ駄目だよ。」


自分にとって、お互いはどんな存在なのか。


「こんな中途半端な気持ちで本田とは付き合えない」


こんな唐突過ぎるのはおかしいとお互い感じていたんだ。




「少し、距離を置こうか・・・・・・・・・・・・・・」




本当は、一番望んでいたものだったのかもしれない。
距離を置いて、自分の気持ちを確認する時間・・・・。